🌊雑記約 1,595 文字

知識にはそれぞれの速さがある

このタイトルは、🇹🇼 泛科學(PanSci)の創設者、鄭國威の📹 講演から借りたものだ。科学コミュニケーションに取り組んできた道のりを語っている。

以下は講演のこの部分を私なりに要約したもので、発言をそのまま引用したものではない。

彼らがコンテンツのテーマを選ぶときは、話題になるかどうかという現実的な判断に加えて、それがどの速さの知識に属するかも考えるという。

速い知識は、ニュースのようなものだ。今日伝えなければ、明日にはほかのニュースに埋もれてしまう。
中速の知識は、技術のトレンドのようなものだ。変化は速いが、その背景には長い文脈がある。表面上は毎日新しいニュースが出ていても、それだけを追いかけていると、波は見えても海流が見えない。AI、半導体、宇宙、エネルギー、バイオ・医療などがこれに当たる。
遅い知識は、今日のアクセス数を急いで稼ごうとも、明日の話題に追いつこうともしない。問いをゆっくり解きほぐし、その歴史、方法、論争、人間性を見ていく必要がある。

速い知識は、泛科學の 3 分間の科学ニュース動画で伝える。中速の知識は 10〜15 分の動画にするが、目指すのは、初めて触れる人に簡単な地図を渡すことだ。遅い知識には「慢科學」シリーズの長い動画を使う。こうした知識は、短くまとめるのがあまりにも難しい。科学者がどう問いを立て、どうサンプルを採り、どんな間違いをして、それをどう修正したのかを理解する必要がある。最後まで明確な答えは出ず、ひとまず信頼できる理解にたどり着くだけかもしれない。

科学リテラシーについて、彼は「速いときには判断できること、遅いときにはそこにとどまれること」とも語っていた。今は何でも速くすることに慣れている。倍速再生、手早い要約、短時間で何かをマスターすること。でも、あまりに速く習得しようとしてはいけないものもある。すぐにマスターしたつもりのものは、たいてい、すっかり誤解しただけなのだ。

AI 時代には、どの知識をどの速さで理解すべきかを見極めることが、とても大切な能力になるのかもしれない。

國威が遅い知識について話すのを聞いて、大規模なソフトウェアプロジェクトを理解することは、まさに遅い知識を学ぶことなのだと強く感じた。オープンソースの Apache Kafka に貢献するなかで取り組んでいるのは、まさにその歴史、方法、論争、人間性に関わることばかりだ。このプロジェクトはすでに 15 年続いていて、今もリアルタイムのデータを処理する多くのシステムで使われている。これだけ歴史があり、ユーザーも多いシステムでは、同じ機能にもさまざまな実装方法がある。実際に手を動かすと、ユーザーやほかの開発者の考えとぶつかることもある。オープンソースのプロジェクトでも、保守の中心を担う企業に事業上の思惑があれば、技術的な選択にもその影響が及ぶ。

AI と一緒に Kafka を開発していると、過去の名残が多すぎて、AI がそれに惑わされることもよくある。たとえば、以前ドキュメントを修正した際に、リダイレクト用のファイルを残していた。そのファイルは、一部でまだ使われている古い URL のために存在していたのだが、プロジェクトの中を見ても、その事情はまったくわからない。AI はそのファイルをどう扱えばいいのか見当もつかず、ただ大真面目にでたらめを語るばかりだった。

ソフトウェア開発のやり方は劇的に変わったけれど、仕事そのものは今も、歴史を理解し、要件を明らかにし、立場の違う人たちと調整することに変わりはない。

結局、どんなことも、歴史、方法、論争、人間性と向き合わずにはいられないのかもしれない。

ここで要約したのは、ほんの一部だけだ。24 分間の講演は最初から最後までとても面白く、ほかにもこんな興味深いテーマが出てくる。

  1. 局所的な敗北が、哲学的な立場として語られること
  2. 感情は強いのに、根拠は薄いこと
  3. 科学の気質:結論を出すのを少し待つこと
  4. 科学コミュニケーションは、観客のために入口を見つけること。伝え方を設計することは、迎合することとは違う
  5. 比喩は足場にすぎない。理解できたら取り払うこと
  6. 注目を集めることと、正確さとのトレードオフ
  7. AI 時代の科学リテラシーでは、情報源を問う力と、「よく整理されている」と「正しい」を見分ける力がますます必要になること

ぜひ見てほしい講演だ。

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